改正建業法は実務への影響大、事務担当者は要チェック!
令和6年6月14日、第三次・担い手3法に位置づけられる改正建業法等が公布されました。順次施行が予定されていますが、いずれも建設業のバックオフィス実務への影響が大きいため、動向を注視する事業者さまも多いのではないでしょうか。本稿では、今回の法改正の概要と実務上の対応ポイントについて、最新情報をわかりやすくまとめました。
CONTENTS
01.第三次担い手三法(建設業法等改正2024-2025年)とは
02.第三次担い手三法(建設業法等改正2024-2025年)の背景
03.第三次担い手三法(建設業法等改正2024-2025年)、3つのポイント
04.事業者の対応ポイント
05.よくある質問
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第三次担い手三法(建設業法等改正2024-2025年)とは
担い手3法とは、建設工事の品質・担い手確保を目的として、これまで一体的に改正が行われてきた建設業法・入契法(公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律)・品確法(公共工事の品質確保の促進に関する法律)の3つの法律のこと。これまでも平成26年(2014年)及び令和元年(2019年)に改正された経緯がある(それぞれ「担い手3法」「新・担い手3法」)。さらなる強化のため、令和6年(2024年)に「第三次・担い手3法」として一連の関連法の改正が行われた。
ご存知のように、建設業法等は時代に合わせてこれまでもたびたび見直しと改正が図られています(参考記事:「2020年改正建設業法3つのポイント解説!」)。いわば、建設業界の世相を映し出す、鏡というべき性格のものです。改正内容を紐解けば、現代の建設業の問題点や向かうべき指針まで読み取れるでしょう。
まずは次項より、今回の法改正に至った背景について解説します。
第三次担い手三法(建設業法等改正2024-2025年)の背景
インフラの守り手という社会的責務や取引される金額の大きさから、建設業はわが国にとって最重要ともいえる基幹産業です。そのため、建設業事業者の資質向上と工事請負契約の適正化は常に重大な課題であり、厳格なルール整備が求められてきました。そうした背景をもとに、昭和24年(1949年)に成立したのが建設業法です。
建設業法は、これまでも時流の要請に合わせる形で幾度も改正されてきました。2024年の改正内容も、現代の建設業の課題を反映したものであることがわかります。その具体的な背景は、以下の3つです。
1)建設業の労働環境
これまでもお伝えしたように、建設業は他産業より労働環境が良好とはいえません。全産業比で就労時間が長い一方、賃金は平均を下回ります(図1)。こうした状況は、建設業の健全な発展にとって積年の課題とされてきました。
問題は、今般の生産人口の減少に伴い、建設業の人手不足が加速していることです。リクルートの調査では、2016年比で施工管理の求人が5.04倍、転職者数が3.84倍に増えていることが報告されています。好条件を求めて人材流動が活発化していること、また、採用が追いついていないことが読み解けるでしょう。
特に中小規模の建設業事業者にとって、労働環境の改善と人員の確保・定着は最優先で取組むべき課題です。今回の法改正も、建設業界の慢性的な人材不足の解消をめざすべく、労働者の適正労務費確保に主眼を置いた内容となっています。
2)建設資材の高騰
さらに、令和3年(2021年)後半以降、原材料費やエネルギーコストの上昇などにより建設資材価格が高騰していることも、法改正の背景のひとつです。
令和5年(2023年)以降も、資材によって傾向は異なるものの、全体として高止まりが続いています(図2)。とりわけ、セメント・生コンクリートの騰勢が著明です。
建設業は、受注から竣工までの期間が長いことから、工期中に思いがけず原材料費が上がることで原価割れにつながることも珍しくありません。下請・元請間の価格転嫁もスムーズでないため、比較的調整しやすい労務費を削ることで資材費の上昇を相殺するケースがしばしば見受けられます。こうした状況もまた、他業種への人材流出に拍車をかけています。
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3)2024年問題
建設業界全体で人員確保と労務費管理の重要さに向き合う大きなきっかけとなったのが、2024年問題です。
2024年4月より働き方改革関連法・改正労働基準法に伴う時間外労働(残業)の規制が建設業にも適用されました。それを受けて、DXによる業務改善や勤怠管理のシステム化を検討する事業者が増加しています。
これら喫緊の課題を解決・軽減すべく、建設業法等改正ではさまざまな施策が盛り込まれています。
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建設業法等改正(2024-2025年)、3つのポイント
令和6年(2024年)に公布された改正建設業法は、大きく分けて以下の3つのポイントで整理できます。
1)労働者の処遇改善
処遇確保の努力義務化
まず、労働者の処遇確保が建設業事業者に努力義務化されます。
今回の改正で、国土交通大臣は建設工事の請負契約の適正化及び建設業従事者の処遇確保のために必要な調査を行ない、その結果を公表できるようになりました。また、次なる施策に活かせるよう、必要に応じて調査結果を中央建設業審議会(中建審)に報告することになります。
労務費基準の作成と勧告
さらに、中央建設業審議会が適正な労務費の基準(標準労務費)を作成・勧告できるようになっています。
建設業法第34条に基づき国土交通省に設置された諮問機関。学識経験者で構成される。建設工事の標準請負契約、入札参加基準、予定価格を構成する材料費及び役務費以外の諸経費並びに工期の基準を作成し、その実施を勧告する。
なお、上述の2項目については、令和6年(2024年)9月1日にそれぞれ建設業法第40条の4、建設業法第34条として先行で施行されています。
不当に低い請負代金による契約締結の禁止
さらに、著しく低い労務費による見積提出や見積り変更依頼が禁止される予定です。
国土交通大臣はこうした原価割れ契約を交わした発注者に対して勧告・公表を行なうことができます。なお、指導・監督については、違反した注文者・受注者ともに対象となります。
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2)資材高騰に伴う労務費のしわ寄せ防止
契約前のルール
資材高騰が顕在化した場合に受注者が変更方法に従って契約変更協議を申し出たときは、注文者は誠実に協議に応じることが求められます(努力義務)。
契約後のルール
資材高騰など請負額に影響するリスク情報について、受注者から注文者に提供されるように義務化されました。また、資材が高騰した際の請負代金などの変更方法について、契約書に明記することが求められています。
変更方法については「建設業法令順守ガイドライン」でも記載例が示されており、「(変更額を)協議して定める」などの記載を促しています。仮に記載していても「変更しない」「変更を認めない」のように協議を前提としない場合、建設業法第19条第1項に違反する旨が示されています。
建設業法第19条第1項
建設工事の請負契約の当事者は(略)契約の締結に際して次に掲げる事項を書面に記載し、署名又は記名押印をして相互に交付しなければならない。
本改正は、令和6年(2024年)12月13日に施行されました。民間工事では特に価格転嫁がスムーズに進まない現状がありますが、本改正による是正が期待されています。
3)働き方改革と生産性向上
工期ダンピング禁止
現行法では、長時間労働を抑制する目的で、著しく短い工期による契約締結が発注者側に対して禁止されています。今回の法改正では、受注者側についても禁止されるようになりました。
国土交通省の調査では、工期不足への対応として、休日出勤や早出や残業など、労働者に負担を強いる対応が4割を超えているといいます。今回の改正で、そうした現状の改善が期待されます。
ICTを活用した適正な施工
建設業法第26条では、高度な施工水準を担保するために、十分な技術力を有する技術者(監理技術者・主任技術者)を工事現場ごとに配置することが求められています。
監理技術者・主任技術者の役割は、施工計画の作成、工程・品質・その他の技術上の管理及び指導監督を行なうことです。工事現場の状況を実地で精査・確認する必要があることから、従来、こうした技術者には、特定の工事に対して専任であることが求められてきました。
鉄道・マンション・学校など公共性のある重要な工事で税込4,000万円(建築一式工事は税込8,000万円)以上の工事を施工する場合(2023年に改正)
令和6年(2024年)の法改正で、工事現場の状況確認などの職務をICTの利用(遠隔通信など)により合理的に行なえる場合は、専任の義務について緩和されました(監理技術者等の専任義務の合理化、営業所技術者等の職務の合理化)。
<>u令和6年12月13日に施行された本改正では、情報通信技術などにより工事現場の状況の確認ができる場合に、請負代金が1億円未満(建築一式工事については2億円未満)の工事については2現場まで兼務できるようになります。
今回の一連の法改正では、上記以外でも建設工事へのICT活用を推進するさまざまな取組みが盛り込まれています。国が効率的な現場管理について指針を作成すること、特定建設業者や公共工事受注者に効率的な現場管理を努力義務化することのほか、 公共工事発注者への提出義務があった施工体制台帳について、ICT活用で確認できれば提出が不要になる、などがそれです。
一連の法改正を通して、今後、より少ない人員で、より効率的に建設工事を進められる体制に変わっていくことが、業界全体に期待されています。
事業者の対応ポイント
令和6年(2024年)から令和7年(2024年)の建設業法等改正に伴い、バックオフィス担当者にはさまざまな対応が求められます。
まず、令和6年(2024年)9月現在、すでに施行されている標準労務費の勧告について、見積りへの反映が適正か否か、随時チェックが必要になるでしょう。また、資材が高騰した際の請負代金などの変更方法について、工事請負契約書の追加項目とするよう契約書ひな形の修正が必要です。さらに、労働者の処遇改善が努力義務化される以上、従業員の精緻な勤怠管理は不可欠でしょう。罰則がないとはいえ、問題ありと判断され、社名が公表された場合、人手の確保がさらに難しくなることは間違いありません。
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よくある質問
- Q建設業法はいつから改正されますか?
- A2024年6月7日に成立した建設業法及び公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律の一部を改正する法律は、2024年6月14日に公布されました。そのうち一部は2024年9月1日に施行されており、残る項目も公布日から1年6カ月以内に完全施行される予定です。
- Q第三次・担い手3法とはなんですか?
- A建設工事の適正な施工及び品質・担い手の確保のため、これまでも平成26年及び令和元年に建設業法・入契法(公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律)・品確法(公共工事の品質確保の促進に関する法律)が一体として改正されています。これがそれぞれ「担い手3法」「新・担い手3法」です。さらなる強化のため、令和6年に持続可能な建設業の実現と担い手の確保を目的とする「第三次・担い手3法」によって一連の関連法の改正が行われています。
- Q監理技術者と主任技術者の違いはなんですか?
- Aいずれも工事現場の管理監督が役割となる点は同じですが、設置される建設工事の規模と資格要件に違いがあります。主任技術者は規模を問わずすべての建設工事に設置が義務づけられています。一方、監理技術者の設置が義務づけられているのは、下請合計金額が4,500万円以上(建築一式工事は7,000万円以上)の工事です。※監理技術者を設置するのは元請側
また、技術者の資格要件についても、二級国家資格あるいは数年の実務経験が求められる主任技術者に対し、監理技術者はより高度な一級国家資格あるいは元請側・大規模建設工事での実務経験が求められます。 - Q監理技術者の専任義務の緩和化はいつから施行されますか?
- A改正建業法では、監理技術者等の専任義務について緩和されており、情報通信技術で工事現場の状況確認をできる場合、2現場まで兼務できるようになります。令和6年12月13日から施行されています。
- Q特定建設業者とはなんですか?
- A建設業許可の区分には一般/特定があります。建設業を営もうとする者は、元請・下請を問わず、一般建設業の許可を受ける必要があります。また、発注者から直接⼯事を請負い4,500万円(建築⼀式⼯事の場合は7,000万円)以上を下請契約して⼯事を施⼯する場合には、特定建設業の許可を受ける必要があります(建設業法第3条・第15条)。
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