建設業会計とは? ~基礎知識からおすすめ会計ソフトまで~

公開日:2023.6.16
更新日:2024.11.18

建設業の業態に合わせた特殊な会計基準、建設業会計とは

建設業の会計実務で使われる建設業会計は、経理熟練者でも戸惑うほど特殊で難解です。正確な理解のコツは、一般会計との違いを整理して、独自のルールが設けられた背景について知ること。本稿では、建設業会計の概説・基礎知識、その特徴から重要性、実際の仕訳例までわかりやすくまとめました。会計業務をスムーズにするソリューションも併せてご紹介します。

建設業会計とは? 一般会計とはここが違う!

建設業は、ものを作るという点で製造業によく似ています。会計処理についても同じように企業会計原則をベースとしており、商業簿記と工業簿記から成る製造業の会計処理とは、多くの共通点があります。

一方で、決定的な違いもあります。建設業では工事期間が長く、着工から引き渡しまでが会計期間をまたぐことも珍しくありません。こうした業態の事情に沿うべく、建設業では他業種と異なる特殊な会計基準が定められています――これを建設業会計といいます。

会計イメージ

建設業会計は、一般会計では馴染みのない特殊な勘定科目と独特のルールから成り、たとえ他業種の経理経験者であっても、その難解さに戸惑う筈です。一方で、建設業は業界特有の商慣行から会計業務(財務会計/管理会計)が他業種よりも重大な意味を持つため、建設業会計についての正確な理解は欠かせません。

次項より、会計業務の基礎知識と建設業特有の商慣行についておさらいしたのち、建設業会計と一般会計の違いについて詳述します。独特の用語も頻出しますが、都度ご説明します。最後に建設業向けのおすすめ会計ソフトもご紹介していますので、ぜひ貴社の課題解決にお役立てください!

会計業務の基礎知識

企業活動にとってお金の流れというものは人間にとっての血液のようなものです。株主や銀行、取引先や税務署など社外のステークホルダーとの間のお金の流れをスムーズにすることで、はじめて健康な経営が可能となります。

そのため、お金の流れを公開して経営の透明性を担保する財務会計、また、お金の流れを正確に把握してそれらを適正化する管理会計は、企業活動にとってきわめて重要な業務です。それぞれ、簡単に整理してみましょう。

規模の大小や上場の有無を問わず、会社法第440条に則り、株式会社は決算公告を行う義務があります。そのため、日々のお金の流れの記録である簿記を基に、決算期ごとに財務諸表を作成します。

財務諸表のうち貸借対照表(B/S;Balance Sheet)の公開はすべての株式会社に義務づけられており、大企業であれば、併せて損益計算書(P/L;Profit and Loss Statement)の公開も必要です。

貸借対照表は企業が持つ資産・負債・純資産の状況(財政状況)を伝えるもので、損益計算書は期ごとの収益・費用・利益、すなわち経営成績をまとめたものです(図1)。損益計算書は、そのためしばしば企業の通信簿と表現されます。

BSとPL

このように、社外に向けて財務状況を報告する会計業務が財務会計です。前述したように、法令で義務づけられた業務であるため、企業規模や業種を問わず、必須の部門/職種となります。簿記が時代を問わず人気資格となっているのは、上記の事情から、有資格者のニーズが根強いためです。

社外向けの財務会計に対し、記録したお金の流れを経営分析に役立てる社内向けの会計業務は、管理会計と呼ばれます。売上の最大化/支出の最小化をめざすとともに、未来の数字の予測といった一連のマネジメントに役立てるものです。

スピーディな経営判断が必要な現代のビジネスシーンでは、予算や原価を正確に算出し、如何に適正化を図るかはきわめて重要なファクターとなります。管理会計は、法律で義務づけられた業務ではありませんが、それだけに、適切に実践するか否かは同業他社と差をつける決定打になるでしょう。建設業においては、なおのことです。

なぜ建設業では会計業務がより重要なのか?

建設業はその独特の商慣行により、前述の財務会計/管理会計業務がより重要な意味を持ちます。その要因について、3つのポイントに整理してご説明しましょう。

建設業事業者は、名乗ればだれでもなれるというものではありません。まず、許可行政庁(国土交通省もしくは都道府県)に許可申請を行う必要があります(建設業法第3条第1項)。また、許可日から起算して5年を経過する前に、更新手続きをしなければなりません(参考:建設業法違反をしないために ~インボイス制度編~)。

その際、添付書類として、貸借対照表/損益計算書はもちろん、完成工事原価報告書の提出を求められます。書類に不備があれば、当然ながら欠格となり、許可が下りません。建設業会計に精通した事務従事者を確保できなければ、そもそも経営を続けること自体ができないのです(参考:建設業の原価管理とは? メリット・課題・最適のシステムまで)。

多くの建設業者にとって、貸倒れリスクが少ない公共工事は、安定した収益が約束された好案件です。ただ、公共工事を受注するには、競争入札を勝ち抜く必要があります。

公共工事の競争入札は、発注者に最も有利な見積の提示及び品質や安全性を審査する総合評価落札方式が主流です。同業他社よりも廉価で、かつ利益を確保するために、きわめて精緻な管理会計が必要になることはいうまでもありません。

三つめの要因として、建設業特有の問題、工期の長さが挙げられます。工期が長くなればなるほど、天候などの影響で進捗管理は困難になり、見積と実績での齟齬も生じやすくなります。また、より深刻な外部要因によって、工期中に当初の見積より材料費や労務費が高騰する事態も、当然ながら起こり得ます。

国土交通省の建設工事費デフレーターを参照すれば、もともと漸増傾向にあった資材価格が2021年の新型コロナ禍以降、急激に高騰していることがわかります(図2)。

建設工事費デフレーター
スライド条項とは?

工期が長い建設業では、契約締結時点の見積と引渡しの際で費用の食い違いが生じるケースが少なくない。社会情勢の急変によるやむを得ない費用増加の場合、受注者のみがリスクを負うのは不適切である。そのため公共工事では、契約締結後に賃金/物価水準が一定程度を超えて変動した場合、発注者または受注者が請負代金の変更を請求できるスライド条項が設けられている(公共工事標準請負契約約款第26条)。

一般社団法人 全国建設業協会の2022年の調査でも、建設受注者の97.8%が資材高騰の影響を受けていると回答しており、業界にとっては頭の痛い問題です。

公共工事では、救済措置としてスライド条項が適用されますが、民間工事では価格転嫁の交渉についてトラブルが少なくないのも事実です。そうした事情もあって、建設業の原価管理にはよりシビアな精度が求められます(参考記事:建設業の原価管理とは?メリットとよくある課題)

建設業会計の特徴

前項までで、建設業会計は難解であると同時に、建設業にとってきわめて重要な位置づけにあることがおわかりいただけたでしょう。もちろん、難解といっても、あくまでベースとなる考え方は、一般的な商業簿記/工業簿記と同じです。そのため、建設業会計と一般会計との相違点を重点的に押さえることが、正確な理解への近道といえます。

建設業会計と一般会計での主な違いは、下記の三つです。

特殊な勘定科目
特殊な原価計算
二つの工事収益計上基準

それぞれ、わかりやすく整理してみましょう。

建設業会計の大きな特徴のひとつが、特殊な勘定科目です。

まず、簿記会計における勘定科目/仕訳について、ざっとおさらいしましょう。

勘定科目とは?

勘定科目とは、帳簿に取引内容を記入する際、だれがみてもわかるように使われる、共通した分類名のことです(表1)。

例えばお金や小切手であれば「現金」、会社所有の事務所や営業所、社宅などは「建物」、切手やハガキ、電話代、インターネット接続費などは「通信費」の勘定科目に分類します。

すべての勘定科目は、取引の5要素である資産・負債・純資産・収益・費用のどれかに属します。

表1 一般的な勘定科目一覧
勘 定 科 目
資産 現金、土地、建物、材料、売掛金、有価証券など
負債 未払金、借入金、買掛金、仕掛品、前受金など
純資産 資本金、利益剰余金など
収益 売上、受取利息、受取手数料、有価証券評価益など
費用 給料、通信費、広告宣伝費、水道光熱費、租税公課など

建設業の特殊な勘定科目

建設業会計では、上表にまとめた勘定科目のほかに、特殊な勘定科目が追加されます。一般的には耳馴染みのないものばかりですが、その実質は、一般会計で使われる勘定科目にそれぞれ対応したものです(表2)。

表2 建設業独自の勘定科目一覧
一般会計 建設業会計 概    要
売掛金 完成工事未収入金 工事完成・引渡しが済んだうえでの請負代金の未収額
仕掛品(しかかりひん) 未成工事支出金 完了していない工事にかかった費用・支出
買掛金 工事未払金 工事費の未払額。外注費もこれに含む
前受金 未成工事受入金 引渡し完了前に受け取った工事代金
売 上 完成工事高 工事が完成したことにより得られる代金
売上原価 完成工事原価 完成工事高に対応する工事原価
建設業法施行規則別記様式第十五号及び第十六号の国土交通大臣の定める勘定科目の分類を基に作成

勘定科目を用いた仕訳の例

会計業務のゴールは、決算ごとに決算書(貸借対照表や損益計算書など)を完成させることです。その第一歩として、取引が行われるごとにそれぞれを勘定科目に分類し、貸方/借方に仕訳していく手順を踏みます(図3)。

会計業務の流れ

例えば、工事で使用する木材を500,000円で購入し、代金を手形で振り出した場合、仕訳は下記になります。

借  方 貸  方
材  料 500,000 支払手形 500,000
※借方・貸方の金額は必ず一致します。

建設業会計のふたつめの特徴は、工事現場ごとに原価管理することと、独自の決まりごとがあるために原価計算が煩雑になることです。建設業における総原価は表3のような構成になっており、基本的には製造業における総原価の構成とよく似ています。

表3 建設業における総原価
総原価 工事原価 材料費 工事で消費した木材、鉄骨など
労務費 工事現場で働く人の賃金
外注費 一人親方など外部事業者への委託費用
経費 その他の費用、家賃や光熱費など
※従業員給料手当、退職金、法定福利費、福利厚生費などは労務費と切り分け、経費扱いになる
販売費 宣伝広告費、旅費交通費、接待交際費など
一般管理費 家賃、水道光熱費、修繕費、通信費、新聞図書費、減価償却費など

製造業における製造原価に対応する工事原価については、基本となる材料費・労務費・経費の3つに、さらに外注費が加わることが特徴です。工事現場において、一人親方など下請事業者を活用することが多い建設業の特性が顕れています(参考記事:一人親方問題の今後は? 建設業の労務・経理がこう変わる!)。

くり返しになりますが、建設業においては工事期間が長く、会計期間をまたぐことも珍しくありません。工事収益計上のタイミングが引渡し時のみだと、工事期間中は売上ゼロということになってしまい、実態に即した精緻な原価管理や正確な財務諸表の作成が困難になります。

そのため、建設業では従来、工事収益の計上基準として工事完成基準と併せて工事進行基準が採用されてきました。ごく簡単にいえば、工事全体の何%が完成したかを算出し、いったんその割合分までを計上する、ということです。進捗度合いに応じて計上することで、会計期間をまたぐ工事の財務会計/管理会計に対応できるようになります(参考記事:工事進行基準による収益計算 ~資材が高騰した際の会計処理は?〜)。

ただ、ビジネスのグローバル化が進むにつれ、企業の財務諸表に関しても国際標準に基づいた形式でなければ企業比較が困難になる場面が多くなりました。それを受けて、2021年4月以降、大企業では国際会計基準審議会(IASB;The International Accounting Standards Board)が開発した「顧客との契約から生じる収益(IFRS15)」を採り入れた新基準、収益認識基準が強制適用されています。

ごく簡単にいえば、工事の進捗度に応じて計上する工事進行基準に対し、契約に基づいて発生する売上について、内訳ごとに顧客が便益を得たタイミングで計上するのが収益認識基準です(表4)。

表4 収益認識基準
工事進行基準 収益認識基準
収益を認識する
タイミング
原価比例法により工事の進捗度に応じて収益を計上
工事収益総額(請負金額)と工事原価総額にそれぞれ進捗度を掛けて算出する
※詳細については建設業会計のポイントをまとめた無料のダウンロード資料参照
つぎの5ステップを踏むこと
【ステップ1】契約の識別(両者の合意)
【ステップ2】履行義務の識別
(契約内容の内訳、収益認識の単位を識別)
【ステップ3】取引価格の算定(見積)
【ステップ4】履行義務に取引価格を配分
(単位ごとに按分して内訳金額を算出)
【ステップ5】収益の認識(単位ごとに収益を認識)
適用範囲 中小企業は任意で従来の工事進行基準を選ぶことができる 大企業および上場企業は収益認識基準が強制適用される
(参考記事:新たな会計ルール「新収益認識基準」とは

複雑な建設業会計に対応するために

ここまでで、建設業会計の特殊さや複雑さ、同時に、建設業にとっての会計業務の重要さについてはおわかりいただけたかと思います。実際問題、事業の生命線といっても過言ではないでしょう。専門知識を有する人材の確保や定着は必須ですが、人手不足が加速する建設業において、それも簡単ではありません。

建設業会計の登竜門として、多くの事務従事者が取得をめざす資格に建設業経理士があります。建設業に特化した簿記会計の専門知識を証明する建設業経理士検定試験は、民間資格であるものの、社会的重要性から建設業法施行規則第19条に「建設業の経理知識審査等事業」として位置づけられる、権威ある資格です。

試験範囲と難易度から建設業経理士(1級、2級)/建設業経理事務士(3級、4級)に分かれ、合格率は2級が40%前後、3級が60~70%で推移しています。なお、1級は3科目の試験をそれぞれパスする必要があり、各科目試験の合格率はそれぞれ10~20%ほど。準国家資格試験並みの難易度といえるでしょう。

試験範囲は建設業における原価計算や工事進行基準の計算など、実務に近しい内容を網羅。公共工事の入札の際、建設業経理士の有無は経営事項審査の加点対象になることもあり、多くの建設業事業者が従業員に向けて取得を奨励しています。

建設業会計は専門性が高いというだけでなく、扱う金額が巨額になるため、万一のミスも許されません。そのため、事務従事者の負担はきわめて大きいといえます。

最適なソリューションは、やはりDX。建設業会計に対応した、会計ソフトの導入です。これらの会計システムの多くは、建設業の特殊な勘定科目や事業者ごとの運用に合わせたフレキシブルな設定が可能になっており、工事原価や進捗管理の機能も搭載されています。建設業会計の知識について自信のない担当者さまでも、システムのサポートによってミスのない会計業務遂行が可能です。

30年以上の歴史と350社以上の導入実績を持つ建設・工事業向けクラウド型ERP、PROCES.Sなら、会計業務のほか予算管理/原価管理業務などの基幹業務を統合し、データを一元管理することができます。一般的な会計ソフトよりもワンランク上の業務改善にお役立ていただけること請け合いです。

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よくある質問

Q建設業向けの会計システムで、オンプレミス型とクラウド型ではどういう違いがありますか?
Aオンプレミス型はシステムを購入して自社で所有・運用する形態を指します。一括の購入費が高額となり保守やアップデートのたびに費用がかかるのが難点です。クラウド型はベンダーが用意するクラウドサーバーにネットワークを介してアクセスする形態で、サーバー管理の手間が要りません。社外からでもアクセスできるため、リモートワークにも対応でき、費用もサブスクリプション方式であるため低額で済むのが特徴です。現在、主流はクラウド型となっています。
Q建設業経理士を取得するメリットは?
A建設業許可申請にもかかわるため、建設業会計の知識は建設業に従事するうえできわめて重要なスキルです。高いニーズがあるため、従業員にとってはスキルアップや就転職、賃金アップに有効ですし、事業者にとっては公共工事における経営事項審査の加点対象となるメリットがあります。

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